山沈の話

(パラグライダーの山林・不時着)


 98年(平10年)9月だったと思いますが、千葉県館山市の山林にてパラグライダーの不時着事故を起こし

ました。この時のお話です。

 不時着と言っても、行方不明3時間くらいで、竹(たけ)藪(やぶ)に着陸したので、ケガもなく

パラの仲間達に3時間程、心配を掛けただけの話です。

 ですが、3時間の行方不明は聞いた事がなく、私の仲間達は、最悪の状況を考えながら、捜索を開始し

たそうです。警察・市などには連絡せずにです。

 では、もう少し、詳細に説明したいと思います。

この日は10人程で、白浜テイクオフにて、風待ち2時間くらい経過し、インストラ

クターも、次第に風が弱くなり、もう充分に安全だと判断したので、GOを掛けたの

です。(なぜ風を待つのかと言うと、風が強すぎると前に、飛べないのです。)、

 
後ろ向きでライザーを引く上級者のテイクオフ・スタイルで待っていると、しばらくして、OKのサインが出た

。グイと引くと機体はすぐに立ち上がったので、前向きに体を半回転させ、前へ一歩踏み出そうとした瞬間

、さらに風が強まり、垂直に、急激に機体が上昇し始めた。 "バンザイ"の声が聞こえたので、そうしたの

だが、

ドーンという感じで、高速エレベーターの感じで、垂直方向に上昇を続け、50〜60mの高度で、上昇は停

滞したが、風はさらに強まる様子で、ジリジリと機体は後方に流され、テイクオフ点より50m程後方で高さ

は70〜80mに達していた。

 この時の機体の速度は時速40`、向かい風の速度は45〜50`くらいと思われ

歩くくらいの速度で機体は後方に流されているのです。

 私は、50〜60m高度で上昇停滞の際に、"前(ぜん)縁(えん)つぶし"(機体の最前部の糸のみ引っ張る

)による機体の速度アップを図っていて、この効果ははっきり感じられていた。

 がしかし、それ以上に風の速度が上がったらしく、少しずつ後方に流され、

テイクオフ点より、60〜70m後方で高さは90〜100mの位置に流されていたのです。

 必死で"前(ぜん)縁(えん)つぶし"を最大に効かしているのだが、テイクオフ点より90〜100m後方に成ってし

まった。

 "前縁つぶし"だが、危険なワザと呼ばれ、やり過ぎると、機体前縁が、下側に折れて、パラが完全に潰

(つぶ)れ、即、墜落となる恐れがあるという。

 この状態で、"前縁つぶし"も5分以上経過し、ウデの力が無くなってきた。

もう、限界だと感じた。

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 先程から、後方の山林を観察していたのだが、5〜6mの樹木の密林が広がり、パラの降りられる場所

は全く見えなかった。

 もう絶対絶命だが、もしかして、風が弱まり、前に出られるかも知れないという

希望も残していたが、ウデの疲労には勝てなかった。
 
「エイ、飛んでしまえ」と自分に命令して、パラを180度、方向転換した。
 
すると、当然もの凄いスピードで後方に飛ばされて、10〜15秒後、高度が下がって、山林の様子がよく見

えてきた。
 
すると、前方に、丁度良い具合に、直径20〜30mの草原が広がっているのが見えたのです。 「コレダ」

と嬉しさが込み上げてきたが、もう高度が無いので、そのまま、直線的に進み、いつもの様に、ブレークコ

ードを一杯に引き着陸(ランディング) しました。
 
「アレー?」草原と思いきや、女(め)竹(だけ)の竹林に着陸していたのです。

体がスルスルと竹林に垂直に沈んで行くので、視界がゼロに成ったのだが、足が地に着かない。

だんだん、落ちるスピードは鈍るのだが止まらない。「弱ったな」と思っていたら、やっと停止したが当然、

宙づり状態。 「アー、やってしまった」と呟(つぶや)いたが、どうにもならない。目が暗さに馴れて来たの

で、地面を確認したが、見えない。

容易でない状況なのだ。曇天なので日没も早そうで、悪い結果を考えた。

 ここで皆さんに、クェスチョンです。私は、ここでどんな事をしたと思いますか?

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10秒休憩・・・・・・

仕方ないので、ハーネス(乗る籠)を引っ張って、ユサユサ、やると少し下がったよう

だ。 ストンと落ちる恐怖と闘いながら、ユサユサやると、下がっているのがハッキリ判った。もう何も考え

ないで、ユサユサ。更に、3分程やると、突然、
 
スルスルと体が下がり、ポンと、足に地面の感触が来た。

「ヤッター」という気持ちが、胸にドーンと来ました。
 
 (後で、女(め)竹(だけ)とパラの機体はなんと相性が良いのだろう、と思いました。)

この土地は砂地に女竹の密林状態。「ヤレヤレ」金具を外すと自由の身だ。
 
パラの回収は断念して、仲間やインストラクターへの連絡を考えて、まず、ここから脱出だ。この頃はまだ

、携帯電話はなく、トランシーバは持たず、だった。      さて、太陽の位置から飛行ルートより左寄り

に カン(勘) で歩く事にする。

 道が無い、竹ジャングルなので地獄の藪(やぶ)コギだった。藪から山林になったので、

楽になった。しばらく進むと、小道に出た。さらに大きい道を進むと知らぬ間に

安房神社の境内だった。

  この時、16時頃、日が暮れそうなので、村の公衆電話から、パラの基地に留守電を入れ、神社に帰っ

てくると、仲間達が迎えに来ていた。 皆んな、「ヨカッタ」と言ってくれました。朝から一緒の仲間達ですが

、一週間ぶりに会った様な気分と会話でした。 翌日、私とインストラクターの二人でパラを回収に現地に行き、

藪に入ったが、パラは、この近くだと宣言してから、4〜5分くらいで、パラを発見で
 
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 きたのは、ラッキーだった。 なお、我がインストラクター殿は、この山沈の場合は、180度方向転換しな

いで、テイクオフのすぐ後ろの、山に山沈してほしかったと言われたのです。 ですが、私は5〜6mの木の

密林にはおりたくなかったのです、と言い訳しました。現在のように携帯を持っていたら話は変ったでしょ

う。山沈の話はここまで。

 余談ですが、私のパラ高度記録は2311mで筑波山の裏の高峯エリアでした。01年2月の事です。この

時の手の指の凍傷は10日程で、きれいに治りました。 駄文にお付き合い有難う。終り。

                              k-fukuda
 
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